いくら評議会と騎士団の地位は同じだと謳ったところで両者の力の差は、今や歴然としている。
元団長であったアレクセイは有力な貴族の家柄であったから、貴族で構成されている評議会にも何かと融通が利いたが、平民出身のフレンでは最初から話にならないと侮られる事が多い。
それでも何とかやっていけるのは皇帝であるヨーデルの後ろ盾があってこそだ。
だから皇帝を交えた定例会議後に、評議会の議員に呼び止められたのは意外でしかなかった。
「ちょっと良いかね?」
「はい? なんでしょう?」
40代くらいの男性が非常に苦みばしった顔をしてフレンの腕を取り、会議後の議員の退室でざわざわと落ち着かない場所から少し離れたところまで引っ張ってこられた。
「その、君はどうなんだろうか?」
「何がでしょうか」
「結婚はしているんだろうか」
「…結婚、ですか」
あまりに予想外の問いかけにフレンは少し固まってしまった。
「未婚です」
「君は年はいくつだったかな」
「22です」
「22か…まだ若い…」
そういうとその議員はマジマジとフレンの顔を見て何かを納得したようだった。
「恋人は、どうなんだね? だれかいい人でも居るのかね?」
まるで居て欲しいとでも言わんばかりの雰囲気を感じたが、フレンは正直に答えた。
「いません」
「そうか…」
非常に残念そうである。
「あの、一体何をお聞きになりたいんでしょう?」
「いや、実はウチの娘が…」
「娘さん?」
「君を夕食に招待したいと言っていてな」
「はぁ」
「是非君と話がしたいそうだ」
「しかし…なぜ私となんですか?」
貴族から良く思われていない事はフレンも重々知っている。
「君に興味があると言っている」
「なるほど」
流石にフレンにも分かった。
平民出の若い騎士団団長。
酒の肴にするにはもってこいなのだろう。
しかしそれは同時にデートの約束をするということでもある。
「少し、考えさせていただけませんか?」
フレンは自分の執務室に帰り、その椅子に腰掛け深く溜息をついた。
目の前の机には一枚の写真があった。
ご丁寧に装丁されたそれは明らかな見合い写真だった。
先ほどの彼とは別の評議員からも似たような話が来ていたのだ。
中を開くと、いかにも貴族の娘というような着飾った女性が椅子に腰掛けている。
少しでも好意的に見ようと暫く眺めてみたが、やはり上手くはいかなかった。
こんな気持ちのままでは駄目だ。
そう、心の中に想う人が居る限り、フレンはやはり駄目なのだ。
レイヴンさん。
甘くも切ない名前を心の内で噛み締めて、フレンはまた溜息をつき目を閉じた。
望みが無いのは良く分かっている。
彼は女性が好きだし、男なんて蛇蝎の如く避けているのだから。
知己であるフレンに対しても同じだろう。
この恋は報われない。
そう理性では考えるが、感情は違った。
言ってみなければ分からないじゃないか、もしかしたら受け入れてもらえるかも。
いや、そこまで行かなくてもフレンがどのように見ているかを知れば、そういう風に意識してもらえるかもしれない。
淡い期待にフレンはこの所ずっと苦しんでいる。
本当はこんなことで悩んでいる時ではないのだ。
後ろ盾の無い平民の若い騎士団長が騎士団を纏め上げるのにも必死なのに、その上評議会とも丁々発止しなくてはならないとなると荷が重過ぎる。
いつまでも皇帝陛下に頼っていたのでは、団長として実力の程が知れるというものだ。
自力で後援者を獲得しなくてはならない。
それには見合いが一番手っ取り早かった。
幸い話に来ている相手はいずれも申し分ないほどの実力者の身内だ。
結婚すればフレンを無下に扱う事も出来ないだろう。
いい話だ。
最善の道は最早見えていた。
だから、フレンは一歩を踏み出す決意をした。
「フーレンちゃん! 元気だったぁ?」
「レイブンさん! 帰ってきてくれたんですね!」
「なにいってんの。最初っから今日帰るって決まってたじゃん」
「でも顔が見れなくて心配していましたから…。これでまた暫くは一緒に仕事できますね!」
フレンの満面の笑みを受け止めてレイヴンは苦笑した。
「その様子を見ると、な~んか色々あったみたいね。どれ? おっさんに話してみ」
いきなりそう切り出されてフレンは言葉に詰まった。
言うつもりではいたが、まさかこんな早くに聞き出されることになるとは思わなかった。
レイヴンはまた暫くしたら《天を射る矢》に戻るのだから、出来ればそのタイミングで言いたかったのだが。
レイヴンもフレンも忙しい身だ。ゆっくり二人だけの時間を取ることも難しいだろう。
非常に辛いが、フレンがレイヴンに会いに行こうとしなければそこまで気まずい時を過ごす事にもなるまい。
フレンは覚悟を決めて、息を深く吐いた。
「その、実は色々とお見合いの話が来てまして」
「ああ~なるほど~。若くして騎士団長に出世! しかもこんな色男! となれば世のお嬢様方がほっとく訳無いもんねえ。で? 誰かいい子でもいたの?」
「いえ……」
「…ま。そりゃしょうがないわよね。まだ若いもん。今のうちから人生決めなくても良いじゃん? てけとーに断ったら?」
「いえ、そういう問題ではないんです」
その深刻そうな声音に、レイヴンはフレンを真っ直ぐ見上げた。
「僕の心の中に、もう、好きな人が居ます…」
それを聞いて一瞬目を見開いたレイヴンだったが、すぐに肩を竦めた。
「そりゃ話が早いわ。告白すりゃいいじゃん。ダイジョーブよ。身分違いだって何とかなるって」
「え?」
「え? そこまで深刻に悩むって事は…エステル嬢ちゃんでないの?」
フレンがあまりに間抜けな声を上げた所為で、レイヴンも自らの見当違いだったとすぐに察したようだった。
「えーじゃあなになに~? 帝都一の色男がなんでそんなに悩んでんのよ~。言っとくけどね、大抵の女の子だったらフレンちゃんに告白されて悪い気はしないって。ガツンといってやりゃいいのよガツンと」
「そう…言ってくださいますか?」
「言う言う言っちゃう。もう太鼓判よ~。フレンちゃんの恋の心配なんてね、おっさんぜーんぜんして無いから! ぜーったい大丈夫だって!」
「では言います…!」
はあ、と大きく深呼吸してフレンは覚悟を決めた。
そっとレイヴンの両肩を掴んで、心持ち引き寄せた。
「好きです。レイヴンさん」
レイヴンはまさに目が点、といった様子で呆けている。
フレンは真っ赤になって額から汗が噴きだして来た。
これまでに無いほど緊張している。
手が震える。
耐えられなくなって生唾を飲んだ。
レイヴンはフレンの腕の中でまだ呆けている。
まさかこんなに反応が無いとは思わなかった。
それが逆に恐ろしい。
早く何か言って欲しい。
まさか伝わってないのだろうか、とフレンは勇気をだしてもう一度、今度は少し大きめに声を出して言ってみた。
すると、漸く言葉として認識したのか、レイヴンがハッと気がついてフレンと視線を合わせた。
「あ…そうだったの…?」
「そう、なんです…」
「それで悩んでたのね~…おっさん納得したわ~」
「あの!!」
なんとなく話を終わらせられそうになってフレンは必死でレイヴンに縋った。
「お願いです。今、返事を貰えませんか?」
「今?」
「はい…。お願いします…」
頼む、頼む頼むとこの時ばかりは必死に祈った。
まさしく天以外どこにも縋る場所はないのだから。
「ごめんね、フレンちゃん」
しかし数秒後。
あっさりと裁きは下ってしまった。
しかも、最悪の方向に。
苦労して指をレイヴンから引き剥がす。
絶望で目の前が真っ黒になったようだった。
「おっさんやっぱ男は無理だわ~。それ以外に理由無いけど、それで納得してもらえる?」
「……はい」
最早空気のような返事を返す事しかフレンには出来ない。
やはり二人の間に横たわるものは絶望的だったのだ。
それを覆す事は出来ないのだろう。
分かっていた事だ。
理性では。
しかし事実として受け止めきれなかった。
「ごめんね。じゃ、おっさんはもう行くわ」
レイヴンはフレンを気遣ってあっさりと執務室から出て行ってしまった。
フレンは。
突っ伏して少し泣いた。
「どうだろう。この間の話、受けてもらえるだろうか」
数日後、またも行われた定例会議で、あの男性がまたしてもフレンの手を取り人気の無いところに連れ出した。
この間からまだ全く心の整理がついていない。
正直勘弁して欲しかったが、元はといえばこうして見合い話を前向きに考える為にレイヴンに当たって砕けたのだ。
…砕けたくはなかったが。心底。
フレンの沈黙をどう取ったのか、男性は焦ったように一人で喋り続けた。
「娘がね、毎日煩いんだよ。君と仕事で会うんだろう。どうして連れて来ないんだって。一度来てくれるだけでいいんだ。正直、君には娘をふって欲しいと思っていてね」
「え?」
「ああいや! 娘が気に入ったならお付き合いしてくれても良いんだよ? ただ、その、君はその、家柄があまりね…分かるだろう」
フレンは殊勝に頷いた。
その様子をみて俄然男はやる気を出したようだった。
「なら話が早い。今夜一晩だけ夕食を共にしてもらえればいいんだ。その中で娘に気の無い素振りでもしてもらえれば、すぐに諦めもつくだろう。どうだ? 今晩付き合って貰えたら謝礼はする! 悪い話じゃないと思うが」
レイヴンに振られたばかりのフレンにとって、こんな最初から報われないディナーなど残酷すぎるように思えたが、それでもこの男性と知り合いにはなれるだろう。
「謝礼なんて要りません。今夜、夕食をご馳走になればいいんですよね」
「そうだ。夜に迎えをやる。城の前で待っていてくれ」
フレンが頷くと、男性は足早に去っていった。
夜は慣れない書類作業と格闘するつもりだったが、差し迫ったものでもないしここのところ作業効率が格段に落ちている。
なにが原因かなんて考えるまでもないが。
とにかく気分転換にはいいだろう。
フレンは今日何度目かになる溜息をまたついた。
「お招きいただきまして、ありがとうございます」
正直こんな晩餐会に呼ばれるなんて初めてで、何をどうしたら良いのか良く分からない。
テーブルマナーだけは団長になる際にしっかりと仕込まれていたが、その時々に応じた臨機応変な対応などまだまだ未熟だ。
だからある程度失礼の無い服装にし、手土産に花束を持ってきた。
それが正しいのかどうかは良く分からなかったが、娘は喜んでいたようだったから恐らくそこまで見当外れでもなかったのだろう。
「あ、ありがとうございますフレン様!」
「様だなんてやめてください。どうかフレンと」
「そんな! フレン様を呼び捨てにするなんてとても出来ません! どうかご容赦下さいまし! ああ、今日も一段とお麗しい…」
なんだか想像していた反応と違って、フレンは内心戸惑った。
フレンに対する貴族の反応なんて、大体は敵対か嘲笑か好奇心のいずれかだ。
こんな上にも置かない態度をされるとどうしていいか分からない。
「さあフレン様! こちらにいらして! もう夕食の準備は万端ですのよ?」
「今日はありがとうございました。マダム」
「はぁ~ん…そんなマダムだなんて…! 気安くマリーとお呼びになって!!」
「何をいっとるんだマーガレッテ。お前なんだかおかしいぞ。大体なんだその服は! 胸が開きすぎだろう!」
「煩いわね! 私が何を着ようと私の勝手でしょう!? さ…フレン様、こちらへ」
右手を母親に、左手を娘に取られ引きずられるように食卓へ案内された。
フレンが席につくと、その両隣を同じように固められ、そして真っ直ぐ向かいに評議員である父親が座った。
そしてそのすぐ隣には、兄だという男が着席している。
兄は非常にシニカルな眼でフレンを見つめていた。
「君が歴代史上最速団長昇進の男か。とてもそうは見えないな」
「偶々です」
「謙遜しなくてもいい。事実は事実だからね。お陰で妹も母君も君の熱心な信奉者だよ」
その言葉に女性陣を眺めると、彼女らは穴が開くほどフレンを見つめていた。
居心地が悪くなり、さり気なく視線を兄の方へ流す。
「私などまだまだです。期待の大きさは感じていますが、まだ何も成せていないも同然ですから」
「おや、世界を救った英雄だと聞き及んでいるが」
「それは仲間がいたから成せた事です。何事にも志を同じくする仲間は最も大切なものだと私は思います。現状騎士団長としての職務の内では、まだ仲間が少ない。評議会の方とも連携を取って行かなくては」
「なるほど」
兄は意味深に父に視線を送った。
父親は咳をして誤魔化した。
「それで今日は態々おいでくださったということか」
「ええ。お知り合いになれる絶好の機会かと」
ハッハッハ、と兄は腹を抱えて笑い出した。
「貴方は中々の剛の者ようだ! とても気に入った! これからも是非仲良くしたいな」
「おい! 勝手にそんなことを…!」
「あら! いいじゃない! 私は賛成だわ!」
「勿論私もよ! フレン様! これからも来て下さる?」
「そうですね、都合が合えば」
「おいおいおい!」
父親が慌てたように立ち上がったのをみて、フレンは冷静に切り出した。
「とはいえ、残念ながら私はまだ山ほど仕事を抱えた新米団長なので、それほど自由が無いのです。今日は特別に大目に見てもらいましたが、これからはそうちょくちょく抜け出せそうに無い。折角のお誘いですが…」
「まあ…お仕事であれば仕方ありませんわ…! なにしろフレン様はこの激動の時代の騎士団長でいらっしゃいますもの」
「そんな! また絶対来て下さいますわよね!?」
「いつかこの食卓に恥じない団長になれたら、また来ます」
「いつまでもお待ちしておりますわ…!!」
食事を終え、仕事があるからとフレンは早めに屋敷を辞した。
話があると評議員の男が、娘の羨望と非難の視線を浴びながら馬車までついてきた。
御者が鞭打つと馬は静かに走り出し、帝都の静寂の中を石畳を踏む蹄の音だけが響いた。
その馬車の中で、評議員の男はフレンの向かいに座り、大きく溜息をつく。
「今日は助かったよ」
「いえ」
「君の言っていた話だが」
「はい」
「私も評議会の一員とはいえそこまでの発言権は無い。君を助けようと思っても助けられんのだ。勘弁してくれ」
「…そう思っていただけるだけでもありがたいです」
やはり世の中そう旨い話は無いようだ。
フレンは徒労だったと思いっきり溜息をつきたい気分になった。
「娘はまだ君に想いを寄せているようだが、もう逢いたいと毎日駄々を捏ねる事はなくなるだろう」
「そちらは…断りきれずに申し訳ありません」
「しかたない…。娘もはっきりと言ったわけではないからな。君が結婚でもすれば諦めるだろう」
程なくして騎士団の詰め所に馬車がつく。
フレンは身軽に飛び降りて、後ろを振り返った。
「今日はご馳走様でした」
「…いや。今時珍しい程の純朴な青年だな、君は」
「そんなことは…」
「あるとも。力にはなれないが、応援しているよ。ではな」
馬車が過ぎ去るのを見送ってから、フレンはすっかり暗くなった空を見上げた。
すっかり寒くなった。
なんとも侘しい気分にさせる季節だと思いながら、コートの襟を合わせながら詰め所の門を潜った。
そんな一夜が過ぎ、フレンの知らないところで既に波紋は広がっていた。
「実は風の噂に聞いたのだが…。君がある評議員の家でディナーをご馳走になったのだとか」
「ええ、個人的なことで親睦を深めただけですが、いけませんでしたか?」
「いや? 協議を円滑にする為にむしろそういうことは公然と行われているね。別にいけないということは無い」
「はあ…」
「実はね」
そして何故か二夜連続、フレンはディナーに駆り出されていた。
今回も評議員の家だ。
ただの貴族ならともかく、評議員となると上下関係があるにしても貴族内でも地位は上のほうである。
それなのに二夜連続、しかも別の家となるとこれはもう異常事態といっても過言ではないかもしれない。
まあ騎士団長という地位を鑑みるにそこまで不自然な事でもないのかもしれないが。
今までの扱いから考えたら、フレンにはとても信じられない事だった。
「あの。どこかおかしかったでしょうか?」
「なんですの?」
「いえ。ずっとこちらを見ておいでなので」
「まあ。わたくしとしたことがはしたなかったですわね。申し訳ありませんわ」
「そんなことはありません。ですが、どこかおかしいところがあったなら後学の為にも教えていただけませんか? なにしろこういうことには免疫がなくて」
今度のお相手はカールした髪を短く切った、いかにも向こうっ気の強そうな女性だった。
「いいえ。どこもおかしくなんてありませんわ。フレン様があまりに優雅に食事なさるから、つい眺めてしまいましたの。お許しになって」
また、フレン様、だ。
いっそからかっていると言って欲しい。
しかし女性の眼差しからそんなものは一切感じない。
皆、厭に真剣だ。
「そんな許すだなんて」
「全く、これだから貴方は下品なんですのよ」
「何をおっしゃるやらお姉様。わたくしたちの会話に口を挟まないでくださいません? 貴方は別にフレン様の事なんてどうでもよろしいのでしょう?」
「そんなこと誰も言ってないわ!」
「まあ! 前にお姉様は言ってましたわね!? 「私はそういう浮ついた男は厭なの」って! 思いっきり勝負ドレス着てるじゃありませんこと?!」
「相手に失礼の無い服装をするのは当たり前でしょう!?」
「そーんなに胸の開いたのを着なくても宜しかったでしょうにね! 好きなら好きと認めたらどうなんですの!?」
「な、な、ば、」
姉のほうが真っ赤になってフレンを見つめた。
フレンも呆気にとられて彼女を見つめる。
「さ、フレン様。食事の続きを…」
「あ、貴方だって!! 貴方だって「騎士団長なんて簡単よ、ウインク一つで落とせるわ」って…!」
「そ、そんなこと! 言ってませんわよフレン様!」
「私だって言ってませんわ! フレン様!!」
「ちょっと放しなさいよ!」
「貴方こそ放しなさいよ!! フレン様が痛がっておられるじゃない!」
「お姉様の所為でしょ!?」
「違うわ! 貴方の…!!」
大変な事になり、フレンはその場を辞さざるを得なかった。
また来て欲しいと懇願されたが、もうフレンが来る事はないだろう空気を読み取って、二人は玄関で号泣している。
物凄く罪悪感はあったが、フレンはあえてそのまま去ることにした。
「今日はすまない。まさかあんな事になるとは…」
「いえ」
「この事は内密に。評議会での君の立場の事は考慮しておこう」
「ありがとうございます!」
とそのまま、まるでリレーのバトンのように毎晩フレンは見合いに駆り出された。
そんな派手な事をしていると流石にばれるもので、今まで会ってきた娘にもまた是非来て欲しいと頼まれて、フレンはとにかく断るのに必死だった。
なにせ次から次に見合い話が飛び込んでくるのだ。
その全てに生真面目に対応しながら、フレンはげっそりとやつれた気分になった。
気分だけだ。
なにしろ毎晩食べてるものだけは無駄に栄養豊富なのだから。
今までの粗食が嘘みたいにいいものばかり食べている。
夕食詐欺みたいだなとふと思いつき、フレンは久々に少し笑った。
あんないい食事を、騎士団の皆にも食べさせてやりたい。
大体からして騎士団は大喰らいの若者が集まっているから食費も馬鹿にならない。
そんなに高級なものは出したくても出せないのだ。
たんぱく質も十分にとらなくては、戦闘するために必要な筋肉の形成に至らないのに。
筋肉の形成、で何故かフレンは久々にレイヴンの裸体を思い浮かべた。
レイヴンの事は日に幾度となく思い出しては暗い気分になるが、あれ以来そういう意図で思い出した事はなかった。
レイヴンは、いい身体をしている。
勿論騎士としてだ。
引き締まっていて、肌が艶やかに褐色で。
まるで食べれそうなくらい美味しそうだ。
湧萬壽で見た裸体が脳裏に焼きついて離れない。
お湯の透明な雫を纏わりつかせ、上気したレイヴンがこちらを見る。
その翠の瞳。
フレンは思わず股間を握りそうになって、ハッとして我に返った。
まだ真昼間だ。
自分は何を考えているのか、危うく騎士としての誇りを汚してしまうところだった。
と、戒めはするが、久々に思い描いたレイヴンの艶姿に、中々興奮は収まってくれなかった。
「だから、今日はワシの孫娘に会って貰いたい」
「しかしもう先約がありまして」
「ああ、そのことなら心配ないよ。もう先方には断ってある」
「え? 何故?」
「ウチの孫と食事するんだ。他の女なぞいるまい」
ニコニコと微笑んでいる老人は、正しく評議会の重鎮だった。
並みの評議員では意見する事すらままならないだろう。
老獪であることで評判のこの男が、こんなに機嫌よくニコニコ笑っているところなど一度も見た事が無い。
それだけ孫娘が可愛いという事なのだろう。
そして恐らくその孫娘がフレンとお見合いを希望していると言うという事なのだ。
今までの流れでそれは何となく察しがついた。
男には評判の良く無いフレンだが、女性にはこの上なく人気があるようなのである。
複雑な気持ちだが、事実は事実として受け止めねばなるまい。
それに、縁談としては破格と言ってもいいだろう。
もうこれ以上の縁談など、冗談抜きでエステル以外ない。
フレンの前途は開けたも同然だ。
だからフレンは黙ってその話を受けた。
「これは本当に恥ずかしがり屋でなあ。家ではアンタのことばかり言ってんのじゃ」
「お爺様…」
これまでとは比べ物にならないほど恐ろしい規模の屋敷に招かれ、フレンは萎縮しながらもテーブルについた。
長すぎるテーブルで、一応隣といえそうな所に座っているのはその孫娘だけである。
銀の髪、白い肌、そして薄い翠の瞳。
フレンは彼女を見るたびにその目に釘付けになった。
誰を思い出すのかなど、考えてみるまでもない。
「ほっほ、お前さんも気に入ってくれたようじゃの!」
「いえそんな…」
「今日は泊まっていくといい。二人でもっと色々話したいじゃろうからな」
「それは本当に結構ですから。仕事も溜まってますし」
嘘じゃなかった。
ここ連日の見合い騒動でかなり溜まっている。
溜まってはいるがそれほど急ぎでもない。
しかしフレンは急いて事を仕損じるのは厭だった。
「今日のところは帰ります」
「ほっほ、見たとこ疲れが溜まっておるじゃろ。黙って泊まっていきなさい」
「いえ…本当に」
結構です、と重ねて言おうとしたフレンだったが、その場に崩れ落ちた。
これは異常事態だ。
なにかの病気かと思ったが、目の前の老人の態度で分かった。
何か盛られた。
フレンは胸を押さえたまま、気を失った。
ぼんやりと、意識が宙を漂っている。
自分はどうしてしまったのだろう。
一体今はいつなのだろう、と考えて、フレンは直前までお見合いをしていた事を思い出した。
そして何か盛られたのだという思考に辿り着き、酷く痛む頭を宥めながら辺りを見回した。
薄暗い部屋の、天蓋つきの豪奢なベッドに寝かせられているらしい。
どうやら生きてはいるようだ。
少し頭を浮かすと、部屋の中がどうなっているのか見えた。
広すぎる室内に、煌びやかな壁画。
そして金箔の装飾。
優雅なテーブルと椅子。
そして女性。
あの孫娘だった。
彼女は白い肌を全て晒してフレンの足元に腰掛けていた。
「フレン様…。フレン様の全てが欲しいのです」
着衣を乱され、中から陰茎が取り出される。
少し擦っただけで、フレンは簡単に勃起した。
あまりに反応が早いので一瞬幻覚かと思ったが、伝わる快感は尋常じゃないものを訴えてきている。
女が、フレンに跨り、その肌を全身にこすり付ける。
フレンはその熱の篭った瞳を見つめた。
レイヴンさん…。
瞳の色だけは本当に似ている。
それだけでフレンはもういいような気がしていた。
この人でいいじゃないか。
僕はどうせレイヴンさんじゃなくても良いんだ。
レイヴンさんにはこっぴどくふられてしまったんだし。
彼を思い出す必要なんて無い。
この人であれば誰も苦しまない。
フレンだって団長としての仕事がしやすくなる。
この大変な時期に評議会ともめて仕事にならないなんてやってる場合じゃないのだ。
切実に後ろ盾が欲しかった。
何もかもうまくいく。
何もかも。
もう二度とこんなチャンスは無い。
逃したら、もう二度は。
いや、こんなことを考える事すら無意味だ。
逃す筈が無いのだから。
だまってこのまま流されてしまえばいい。
フレンは彼女の白い肩に掌を乗せた。
それなのにフレンは走って屋敷を逃げ出していた。
股間が張り詰めていて大層走り辛い。
情けない事この上ない。
女性を突き飛ばして、無様に逃げ出してきた。
未熟で、浅はかで、とにかく思いつくありったけの罵詈雑言を自分に浴びせた。
こんな事は無意味だ。
誰の得にもならない。
フレン自身にも。
そしてレイヴンにも全く関係ないのだ。
レイヴンの所為でフレンは逃げ出してきたのに。
涙が流れるままにとぼとぼ歩いて騎士団の本部へ戻ってきた。
門番とは顔を合わせ辛くて、ユーリが良く使っている秘密のルートで内部に入り込む。
この時間殆どの人間は兵舎に戻っている事だろう。
フレンの執務室辺りなど主の不在もあって無人の筈だ。
隊服のポケットを漁って鍵を取り出すと、差し込んで廻そうとした。
だが、鍵は掛かっていなかった。
掛け忘れたかと思い、部屋に入ると机に明かりが灯っている。
それなのに誰も座ってはおらず、その前の応接セットのソファーに人影が寒そうに丸まって眠っていた。
今一番逢いたくない、いや本当は逢いたかったレイヴン、その人だった。
どうして、と頭が混乱する。
なぜ自分の執務室じゃなくてフレンの執務室にいるのか。
一瞬自分がレイヴンのことを考えすぎて部屋を間違ったのかと思ったが、この部屋の様子は間違いなく自分の部屋だ。
ならばレイヴンはこんな夜更けにフレンの執務室にやってきて、そのソファーで眠っているという事になる。
これには一体どういう意図があるというんだ。
もしかしてフレンがいない時にずっと来ていたのかもしれない、とその甘美な想像に脳が痺れる。
本当にそうだったらどうしよう。
あなたの心が分からない、とフレンは混乱しながらもレイヴンに近づき。
そしてその上に圧し掛かった。
限界だった。
股間はなぜかすぐに勃起してしまい、ここまで来るのに苦労するほどだった。
もしかしたら盛られた薬になにか入っていたのかもしれない。
ただ今はそんなことはどうでも良かった。
これをレイヴンに入れられさえすればそれでもうフレンはいいのだ。
想いが報われなくても。
これからどんな災難が降りかかろうとも。
レイヴンに冷たい目で見られようとも。
穿いていたものを乱暴に脱がし、フレンはレイヴンの足を抱え上げた。
「ふぁ? フレンちゃん?」
流石に足を上げられて起きない筈がなかった。
レイブンが暢気な声を上げてフレンの胸辺りを掴む。
そのある意味稚く見える仕草にフレンの下半身は益々張り詰め、もう痛いくらいだった。
荒すぎる息の意味を悟ったのか、レイヴンはつつつと視線を下げてフレンの勃起したペニスを確認した。
「うわー…フレンちゃんのおっきいのね~…」
あまりに危機感無い一言にフレンがブチ切た。
「どうして好きだと告白してきた男の部屋に来たんですか? からかっているのですか? 僕が本気じゃないと?」
それを聞いて、レイヴンは気まず気に頬を掻いた。
「ごめん。部屋の窓割れてさ、寒くて。仕事途中だったし、フレンちゃんは今日も見合いでしょ? 執務室に帰ってこないかと思って」
言い募るレイヴンに、フレンは地の底まで落ち込んでいくのを感じた。
まさかこの据え膳がたった窓が壊れただけで整ったものだったなんて。
信じたくない。
いやもうそんなことはどうでもいい。
ヤるのだ。
フレンはもう強姦魔なのだ。
この際被害者(予定)の事情など忖度している場合ではない。
「行きます」
「あ、ちょ、ちょっと! まさかそのまま突っ込む気!?」
「すみません」
「やだぁ! おっさんそこまでマゾじゃないわよお」
というや否やレイヴンが何のためらいもなく手をフレンの竿に伸ばした。
急所を攻撃される、と思ったがレイヴンは優しくフレンの一物を扱いてくれた。
たまらない。
まるで目の前を星がチカチカしているみたいだ。
人にやってもらったのは初めてではないが、こんなに気持ちいいのは初めてだった。
フレンは耐えられずに喘いで仰け反った。
その反応が面白かったのだろう、レイヴンは逆にフレンを押し倒すとやりやすくなったとばかりに激しく扱く。
「れ、れいぶんさぁん…」
「すっごい固ーい! やだフレンちゃんどんだけ溜めてんの?」
「そんなにしては…あっ」
「いいから一回出して」
耐え切れずにレイヴンの掌の中で射精する。
あまりの気持ちよさに頭がガンガンした。
「うわー。…若いって羨ましいわ~」
レイヴンが楽しそうに言っているが、最早フレンは聞いちゃ居なかった。
余韻が凄まじすぎる。
腰ががくがくと震えた。
こんなこと、今まで一度だってなかった。
好きな人にされているからだろうか?
こんなことを恋人達はいつもしているのだろうか?
よく死なないものだ。
フレンは今現在死にそうである。
気持ちよすぎる上に幸せすぎてである。
目の前に焦がれて焦がれて焦がれぬいた翠の瞳が薄い明かりに照らされて妖しく輝いている。
こんなことになるとは思わなかった。
もういつ死んでも悔いは無いと本気で思える光景だった。
「フレンちゃん。そんなに良かった?」
がくがくと首を縦に振る。
「でも、まだ元気一杯見たいだけど。大丈夫?」
信じられない事にもうフレンのは回復しかけていた。
しかし快感が強すぎて、今はどうこうしようという気になれない。
レイブンも逃げるなら今だと分かっているだろうに、全くそんな素振りを見せなかった。
「まさかフレンちゃんがこんなにスキモノだったなんて…ちょっとショックよね~。だがそれがいい!!」
レイヴンはフレンに妖艶に微笑みかけると、なにやらし始めた。
フレンが身を起すとそこには自分の中に指を突っ込むレイヴンの姿があった。
「はぁうっ…! もー、なにもないんだもん…っ! フレンちゃんの…アレ使うしか…ぁ」
「れ、レイヴンさん!?」
「なんか持ってきてー。すべりのいい奴」
「は、はい!」
フレンは飛び起きると机の引き出しからローションを取り出した。
「……なんでそんなもんがそこにあるわけ?」
「すみません…」
フレンはいつかレイヴンに使うかもしれないと置いていたわけだが、恐らく正しくは伝わらなかっただろう。
フレンは乱暴にキャップを飛ばすと全力で自分の掌に出した。
「なに、フレンちゃん…興味あんの?」
「…勿論です」
レイヴンは口の端だけで微笑むと、座る位置をずらし、フレンの肩に足を掛けて誘う。
その足を片腕で掴んで乱暴に引きずると、目の前で足を頭に付くほど折り曲げた。
目の前にはレイヴンの秘所が余すことなく晒されていた。
レイヴンがクスクスとフレンの夢中な様子をからかう様に笑っているのが聞こえたが、フレンにはもうそれに反応を返すような余裕はなかった。
ぬるりとローションを塗った掌をこすりつけるとビクビクとレイヴンの腰が揺れる。
「はぁっ…おっさん切ないのよ…。早く慣らして欲しいの。わかる?」
「了解しました」
全く色気の無い返事を返しながら、フレンは恐る恐る指を突き入れる。
レイヴンのそこがまるで飲み込むように誘い入れ、フレンの指は至福の空間を味わう事になった。
中指をずぼずぼと出し入れしていたら、焦れたレイヴンが起き上がり自分で指を突き入れた。
「もう! この体勢苦しいんだからさっさとしてよね! ああああっ! フレンちゃん! も、おっきくなった? おっさんそろそろ我慢できないんだけど。おっきくした?」
「もうなってます」
フレンはレイヴンの腰を思いっきり抱え上げるとそのまま突き立てるように自分の上に導いた。
「ちょ、この体位? 初っ端から冒険過ぎんでないの?!」
「ああ、レイヴンさん!」
もう話をきいちゃいないフレンはレイヴンの尻たぶを鷲づかんで広げるとその中心に頭を潜らせた。
「ひあああ…っ! は、入んのかよ! あちょ、フレンちゃん!? もっとゆっくりぃいい!」
「レイヴンさんレイヴンさんレイヴンさん!!」
まだ全部入ってないというのにフレンは我慢できず乱暴に腰を動かす。
全く堪えられないのだ。
自分の頭がおかしくなったのかと思うくらいに気持ちいいこと以外何も考えられない。
レイヴンが眉根を寄せて苦しんでいる、その身体を乱暴に押し倒して自分勝手に腰を振るとすぐさまいってしまった。
またそれが凄かった。
いく時にレイヴンが強く締め付けたのだ、その所為で物凄い勢いで中に出てしまった。
出してからもまだ快楽が続いて、フレンは涎を垂らしレイヴンに抱きつきながら悶えた。
「フレンちゃん…凄すぎるよぉ…。おっさんついていけないよお…」
レイブンが半泣きで首を振る。
強く抱きしめられすぎて全くみうごきが取れないのだ。
さっきからレイヴンは全く気持ち良さそうでない。
こんなことをしていては益々嫌われてしまう、とフレンは絶望にも似た気持ちを抱きながら、それでも下半身には逆らえずにまたしても乱暴に腰を動かしてしまう。
「またぁ? まだやるのぉ? も、死ぬ。マジで股裂けて死ぬってぇ! フレンちゃん! もっと優しくぅ、いでいででっ!」
「すみません! 気持ちよすぎてええ! あ、ああああ、レイ、ヴンさああああんん」
絶対嫌われた。
絶対嫌われた。
絶対嫌われた。
フレンは朝からずっと不幸のどん底を彷徨っていた。
起きたらレイヴンが居なかった。
昨日、物凄い無理強いしたのはどうしようもなく覚えている。
どうせ嫌われるならいっそやってやると思った気持ちは確かにあったが、あそこまで酷いことするつもりじゃなかった。
もっと合意、じゃなくてもいつも妄想の中で夢見るように、気持ちよくしてあげたかった。
確かにフレンは天国見たが、レイヴンにとっては地獄でしかなかっただろう。
はあ、なんて酷い事を…。
と反省しつつも、フレンのものは元気一杯立ち上がっていた。
どういうことなんだ!と、自分でも思う。
しかし仕方ないのだ。
もう朝からずっと天国見たままなのである。
レイヴンの余韻が凄すぎてフレンはもう頭おかしくなりそうだった。
脳裏を駆け巡るのは昨日のレイヴンのエロい姿ばかりで、ちっとも仕事が手につかない。
昨日の今日できっとレイヴンはフレンの顔も見たくないに決まっているが、フレンはもう彼を抱きしめたくてしょうがない。
もっというと色々したくてたまらない。
あんなにしたのに。
無茶苦茶したというのにまだ全然足らない、それが恐ろしい。
「フレンちゃんおはよー」
「レイヴンさん!?」
レイヴンが普通にドアを開けて入ってきた。
フレンが告白してからこんなに気軽にやってくる事はなくなっていたというのに。
なぜかあんな事があった後に前より気安くやってきてしまった。
フレンは瞬間的に顔が赤く染まった。
ついでに半勃ちした。
「もーフレンちゃんが若すぎておっさん死ぬかと思ったわよお」
「すすすすすみません! いくら謝っても取り返しがつかない事は分かっています!」
「取り返し…。まあ男ならそういうことも間々あるってことよ。よっく分かったでしょ?」
「…そうです…ね」
「あんまり落ち込まないでね?」
「はい…ってあれ? なぜ僕がレイヴンさんに励まされているんですか!?」
「そりゃ、フレンちゃんが落ち込んでるから?」
レイヴンは小首を傾げた。
その仕草に、一層充血するのが分かった。
心持ち前屈みになり、フレンは不味いとレイヴンを退けようとした。
「その! とにかく昨日は本当に申し訳ありませんでした! 許されざる事をしたのは分かっています! だからしかるべきところへ出るのも厭いません! いかなる責めも受けます!」
「いかなる責め、とかなにそれエッロいのねフレンちゃんったら~」
「な、なな、も、違います! そういう意味じゃ」
レイヴンがからからと笑うのに、過剰に反応してしまう。
フレンの様子がおかしい事に既に気づいていてからかっているのは明白だった。
必死に興奮を隠そうとしているのに、レイヴンは構わず近づいてきて机の向こう側に立った。
「あんなにしたのに足りなかったの?」
フレンは顔から火が吹く勢いで自らを恥じた。
「絶倫ってホントに居たのね~。羨ましい限りだわ~。おっさんこの年になると中折れも結構…」
「なんの話ですか!」
「あ、ごめんごめん」
レイヴンは乗っている書類を退かすとフレンと向き合うように机に腰掛けた。
それにぎょっとして動けないフレンをあざ笑うかのように見下ろすと、頭を引き寄せる。
「しゃぶってあげようか? 昨日出来なかったし」
「……え?」
「それとも足で踏む方がお好みかね? おっさんはどっちでもいいのよ~?」
うろたえるフレンを尻目に、レイブンは片足からブーツを抜き去ると、フレンが必死になって抑えていた股間に当てた。
間接的に当たっているというその事実だけで、フレンのモノは素晴らしい反応を返す。
レイブンは異常にあくどい顔をしてフレンの変わり様を眺めていた。
フレンの脳がとろけていく。
「手、どけて?」
「…はい」
ユーリ達に会うまで、レイヴンというのに心はなかった様に思う。
しかし心と身体は別々で、下半身は勝手に欲求を訴えてくる。
めんどくさいがどうしようもない。
自分でするのはいかにも億劫だったので、誘ってきた奴には大抵応えた。
脱がそうとする奴は拒んで置けば良かった。
自由を奪おうとする奴からは逃げて、二度と誘いには乗らなかった。
もし心臓魔導器のことがばれれば殺さなくてはならない。
それがいかにも面倒だ。
そんなことを繰り返しているうちにいつのまにか身体はどんどん快楽に慣れていく。
そんな矢先に出会ったのがユーリたちだった。
彼らに出会ってから、レイヴンはその爛れた関係をすっぱり全部切ってしまった。
心を移した人間はいなかったし、それにあの純粋無垢な仲間たちの中で自分が厭なものになった気がして、これ以上続けられなかったのだ。
旅が終わってもその気分が続いて、特に色街の女性とは付き合えなくなった。
真っ当に普通の人間のように恋人を作ればよかったのだと思うのだが。
生憎とレイヴンは忙しくてそんな暇がなかった。
そんな中、フレンに告白された。
身体は結構切実に「フレンでいいじゃん。若いし」って言ってた。
心はお気楽に「付き合ったら楽しそうじゃね?」って言ってた。
でも断ってしまった。
仕方ない。
理由は色々ある。
最たる理由としてはフレンが可哀相だった。
相手に前途ありすぎて、流石に躊躇った。
真面目なフレンの事であるし、ここで一時の感情に流されて了承してしまったのでは、あとで絶対傷つける事になる。
レイヴンはフレンの為を思って振ったのだ。
いい事をした。
したけど、惜しい事もした。
「あ~あ…、OKしときゃよかったんだよ…」
フレンの執務室を出ながら一人ごちた。
親切心など出すんじゃなかった、と舌の根も乾かぬうちにもうそんな事を思った。
でも振ってしまったもんは仕方ない。
下手に時間など貰わなくて良かったかもしれない。
考えないようにしていても溜まるもんは溜まるし、フレンとヤれたら凄く気持ち良さそうなのだが。
舌打ちしてレイヴンは今からでもOKしようかどうか悩んだが、今更変えるのも間抜けだ。
潔く諦めるか、と溜息一つでフレンを逃がしてやったのだ。
ところがそんなある日、レイヴンの執務室の窓が割れた。
ボッコスが転んで穴を開けたのだ。
しょうがないわね~、と言いつつ紙で塞いで仕事をしていたのだが、夜になって寒さが厳しくなり、冷え性のおっさんには辛い室温になってしまった。
レイヴンは身を擦りながらどっか仕事できる部屋は無いのかと考えた。
できれば暖かくて、机があって、集中できて、静かな部屋。
隊長クラスの執務室なら文句無いのだが、とそこまで考えて思いついた。
そういえば以前、フレンの執務室の鍵を貰っていた。
なぜそんなものをくれたのか当時は意味が分からなかったが、今にして思えば分かりやすい愛情表現だったのだろう。
とにかくこれで助かった。
顔を見ると「やっぱりあの時の返事なしで」とか言っちゃいそうなので避けていたが、彼は専ら夜は見合いに駆り出されてるみたいなのでもう居ないだろう。
夜の間だけこっそり借りればいい、そう思って部屋に行ったのだが。
仮眠のつもりで一眠りして、起きたらなんかフレンがいて興奮してた。
どうやらレイヴンとするつもりみたいで、豪く息が荒い。
勿論拒む理由は一切なかったが、でもいきなり突っ込まれるのは流石に厭だった。
だから非常に協力的に物事を進めたが、意外だったのは、フレンが凄いってことだった。
フレンが凄すぎて。
フレンが凄まじすぎて。
レイヴンはちょっぴり怖かったが、なんだか楽しくなってきた。
こんな凄いの今までなかった。
絶対フレンとかセックスに漕ぎつけるまで面倒な奴だと思ってたけど、そんな事なかった。
フレンは話の分かるいい奴だったのだ!
「レイヴンさん…今日はその…! お招きいただきましてありがとうございます!」
「いいのいいの。見合い全部断っちゃったんだって? 勿体無い~。おっさんの事なら気にしなくていいのよ」
「お願いですから気にさせてください!! ぼ、僕とレイヴンさんはこ、こ、恋人同士なんですから!!」
フレンが白い肌を真っ赤に染めてモジモジした。
それをみてレイヴンは情事を思い出して密かに舌なめずりをする。
「お腹空いてるでしょ? さ、座って座って」
「ありがとうございます。…あ」
「ん? もしかして、牡蠣嫌いだった?」
「いえ! ただこの所ずっとお見合いで牡蠣を出されていたので、何かあるのかと…」
「旬だからじゃな~い? もう牡蠣あきちゃった?」
「そんな事ありません! フライは出ませんでしたから、とっても美味しそうです!」
「そ? 良かった。じゃ、一杯食べてね~」
はい、とフレンは嬉しそうにフォークを取った。
一口目を食べようとして、不意にそれを下げる。
「あの、レイヴンさん」
「なあに?」
「今日は色々な話を聞かせてもらえませんか? 僕らはまだまだお互い知らない事が山ほどありますから」
「そうね~。…所で、おっさんも牡蠣好きだから、暫く続くと思うけど」
「はい! 構いません!」
レイヴンは、ニヤリと内心笑いながら、表面だけはニッコリと微笑んだ。
「良かったわぁ。じゃ、沢山食べて頂戴。出来れば、毎日」
「ありがとうございます」
毎晩レイヴンの家に誘われるのだとフレンは単純に喜んでいるようだったが。
レイヴンは毎晩のお楽しみを想像して、期待に股間を膨らますのだった。
おわり
はじめてこれ出した時から最後までできてたんですけど、あまりにひどい話だったんでなんとかしようと書き直したりなんだりしたけど、結局どれも最後までいかず結局初稿をだすダメ人間。
このブログ書きかけばっかだったんで、一つだけでも終わってよかったわ…多分…。